LGBTに関する医療的な関与はどのように変化してきたのでしょうか?
同性愛と医療
同性愛は、かつて生殖に結びつかない性行為は異常であるとの考えから、精神疾患として見なされ、その性指向を異性愛に無理に変更させようとし、精神医学的な治療が試みられてきました。
しかしながら、その治療は結局失敗に終わり、性指向を強制的に変更させることは困難であることがわかりました。
さらに、同性愛を異常とみなすことへの疑問が高まり、1973年には、米国精神医学会のDSM-II(精神障害のための診断と統計の手引第二版)から同性愛が削除されました。
そして1994年には、WHOも同性愛はいかなる意味でも治療の対象にはならない、という宣言を行いました(ICD-10国際疾病分類大10版)。これらの経過を経て、現在は、同性愛は性指向の一つであり治療の対象とはされていません。
性同一性障害と医療
性同一性障害に対しても、過去には同性愛と同じく、その性自認を無理に変更しようとする治療が試みられていました。しかしながら、この変更もやはり困難であり、その後は身体的性別を性自認に合わせる治療が行われるようになりました。
これは、心とからだが一致することで正常になるという医学的思想が背景にあることを否定できませんでした。
このような考えに対しては、心とからだの性別が一致しなくてもいいのではないか?個々の性自認や身体的性別はさまざまなものがあっていいではないか?という新たな考えが当事者たちを中心に提起されてきました。
この考えにもとづき、1980年代には、脱精神病理概念として、トランスジェンダーという用語が用いられるようになりました。
性同一性障害から性別違和へ
このため、同性愛と同じく性同一性障害も脱精神病理化すべきだという議論が持ち上がり、2013年には、米国精神医学会の発表したDSM-5(第五版)では、 精神病理概念としての扱い自体は継続となりました.
これまで使用されてきた「性同一性障害」という名称から、より病理性の薄い「性別違和」という疾患名に変更されました。
また、2018年5月には、ICD-11では、「性別不一致(gender incongruence)」という病名へ変更されています。このICD-11の中では、精神疾患でも身体疾患でもなく、第三の分類として位置づけられています。
「性同一性障害」から「性別違和」に名称が変更されたことは、病的ニュアンスが緩和されましたが、当事者が抱える精神的問題への支援がより必要とされます。
この名称変更の理由として、性同一性障害という疾患という診断名でありながら、あくまでも実際に治療として行われるのはシス・ジェンダー(出生時に割り当てられた性別に違和感がない状態)に矯正することではありません。
自己申告された性自認とそのライフスタイルを尊重し、その典型的でないために生じている社会的機能不全を解消する手段としてホルモン治療や手術治療の医学的介入が実施されているからです。
医療側が考慮すること
医療側の基本原則として、
① 個々のセクシュアリティーを尊重する
② 自己決定に対して情報を与える
どのような医療を求めるのか?選択可能な医療手段を呈示する、侵襲を伴う治療には身体にどのような影響があり、副作用、後遺症にはどのようなものがあるのか?また、その利点があるのかを十分に説明すること
③ 合併する精神状態やその他の医学的問題に対応すること
差別や孤独により、二次的にうつ状態があり対人関係上の問題を抱える場合も多い
専門家の役割
- ①自己のセクシュアリティーを知る
- ②情報を知る
- ③多様性を受け入れる
- ④社会への啓発教育をする
医療従事者は、ひとの健康の保持・増進に寄与する役割があります。そのため、当たり前のことですがLGBTの人々に対しても同じです。
セクシュアリティーに対して理解を深め、当事者に対しては有益な情報提供や治療を提供することが大切です。
また、社会における健康教育として、LGBTへの理解を促し、許容できる人間関係 作りができるよう働きかける必要があるでしょう。